「痒くても届かなかった場所に、やっと手が届く感覚」
カナダ・トロントの大学でコンピューターサイエンス、バイオインフォマティクスを専攻。大学を卒業し、この秋から新社会人として日本での生活をスタートした安藤さん。高校1年生で1on1 collegeと出会い、社会人になるまでの7年弱、毎月欠かさず1on1を続けてきました。学生生活を充実させるための習慣の見直しから、卒業後のキャリアまで。1on1を通じてさまざまなテーマについて語り、自己理解を深めてきた安藤さん。継続の理由や、影響など、これまでの道のりを振り返ってもらいました。

安藤 和泉
既卒
<1on1 collegeとは>
1on1 collegeは、高校生・大学生が、自身の選択を最適化するためのツールです。社会人メンターが、1時間のオンライン1on1ミーティングを、無料・回数無制限で提供しています。1on1は、なんでも話したり、考えたりできるツールです。進路や就活について考えたり、最近興味のあることや悩んでいることを整理したり、自己理解を深めるために活用している学生もいます。様々な角度から質問をもらいながら、たくさんのことを「言語化」することで、自分の価値観、行動、目標や課題、優先順位が「整理」され、次の自分の「選択」が最適化されていくと考えています。
体験1on1はこちらから:https://www.1on1college.com/start
原動力に気づけた1on1の時間
━━ 1on1 collegeを続けてきて、印象に残っている回はありますか?
トロント大学に行く前、慶應SFCに半年ほど通っていた時期があって。キャンパス内の池のほとりに座って、オンラインで1on1をしたときのことが、なぜか鮮明に記憶に残っています。
そのときのテーマは、「自分の原動力」についてでした。私は、高校時代からテストに対して苦手意識があって。テスト以外のことは頑張れるのに、なんでテストでは頑張れないんだろうという疑問がずっと自分の中にあったんです。
メンターの長谷川さんと話しをするうちに、自分の原動力は承認欲求なんだと気づいた。たとえば、尊敬する先輩や上司から、「この人なら信頼して任せられる」と思ってもらうためなら、いくらでも頑張ることができる。でも、テストの場合は、誰がどんな点数を取ったのかなんて周りの人には分からないし、先生も一人ひとりの生徒の点数までは覚えていない。だから、テストに対するモチベーションが持てなくて、充分に頑張れないんだと分かって。
認めたくないけど、それが自分の原動力なんだって思ったんです。
━━ 認めたくなかった?
承認欲求が原動力ということは、自分のモチベーションが外的要因に振り回されやすいということを認めるようなものなので。
でも、1on1で話しをしているうちに、いい悪いではなくて、これが自分なんだと納得できるようになりました。
━━ 自身の原動力を知れたことで、その後の行動に変化はありましたか?
たとえば、すべての場において認められたい相手を見つけるとか、そういう大きな変化をつくることができたかと言われるとそういうことはなくて。
でも、大学で研究をするなかで、博士課程やポスドク(博士研究員)の先輩と1対1で研究をする機会があったときに、「ここは力を発揮できる場だから、自信を持って頑張らないと」って意識することができた。それは、自分がどういう人間かを理解していたからこそできたことだと思っています。

━━ 原動力を知るなど、自己理解をすることは、安藤さんにとってどんな意味があるんでしょう。
1on1 collegeに出会う前から、自分の考えを深めたり、振り返ったりすることが好きだったんです。自分のことを理解できれば、強みを活かして行動できるし、弱みに振り回されないように自分をコントロールできる。
自己理解は、自分のためにも、周りのためにも、より良い人間になるために大事なことだと思っています。
「時間の経過を定期的に確認する場」
━━ 1on1 collegeを始める前から、意識的に自己理解をしていたんですね。そんななかで、あえて1on1 collegeを使う意味はどこにあると感じていますか。
私の場合は、1on1で話をする前から、自分のなかに半分言語化できている考えがあって。その考えの解像度を上げるプロセスを、1on1の時間を使って行っていました。
人に話をすることで、頭の中だけだったら省略してしまうようなことも、あえて口に出して説明するようになる。口に出してみると、関連していると思っていたトピックが実は繋がっていないことに気づいたり、説明できると思っていたことがうまく説明できていないと分かったりするんです。
いい例えかわからないけど、数学の公式を授業で説明されて、頭では理解した気持ちになっているけれど、実際に問題を解いてみるとその公式を使いこなせないことに気づく。それを、練習問題を解きながらだんだん理解していく過程と似ていて。話すことで、ぼんやりしていた考えの解像度が上がって、思考がクリアになっていくんだと思います。
━━ 口に出して他人に説明することで、自分の考えをクリアにしていく。友達や家族と話をする感覚とは何が違うのでしょう。
友達や家族の場合は、アドバイスをしてくれることが多い。それが必要なときもあるけれど、自分の考えではなく、周りの意見に影響されてしまう部分もあるなと思っていて。
1on1 collegeの場合は、質問をして思考を深める手伝いはしてくれるけれど、絶対にアドバイスはしないんです。
━━ 7年間話していて、アドバイスを受けたことは1度もないんですか?
ないですね。だから、他人の意見に影響されずに、自分なりの脳内整理ができる。自分だけで考えたときにどういう答えに至るのかを知れるのは、1on1 collegeだからこそだと思います。
もう一つ、とてもいいなと思っていたのが、「定期的に時間の経過を確認できる」という要素です。
私の場合は、毎月1回必ず1on1をするようにしていて。セッションの初めに必ず長谷川さんが「この1ヶ月はどんな1ヶ月だった?」と聞いてくれる。その問いのおかげで、1ヶ月を振り返るタイミングを持つことができていました。報告することがなければ、時間の使い方をあまり意識できてなかったと気づくきっかけになるし、来月は頑張ろうと思える。
NHKの番組キャラクター「チコちゃん」じゃないですけど、「ボーッと生きてる」のが嫌なんです。だから毎月1回、自分がどんな時間を過ごしたかを振り返れる場があるのはありがたかった。7年弱、毎月振り返りの機会を持てたことが、自分の生活を充実させてくれたなと思っています。

━━ 安藤さんが通っていたトロント大学は、課題も多く、授業についていくだけでも大変な印象があります。振り返りをしなくても、ボーッと過ごすこと自体が難しい環境だったのかなと思うのですが。
日々忙しいと感じていても、振り返ってみると課題の締め切りなど他人が設定した期限にただ従って動いていただけで、積極的に時間を使うことができていないときもあるなと感じていて。
たしかに大学の勉強は忙しかったけれど、同級生のなかには、フルタイムで仕事をしながら、大学で学んでいる子もいれば、睡眠時間をしっかり確保してスポーツもしている子もいた。勉強が大変だから時間が全くない、っていう考え方をするのは悔しいなと思っていました。
━━ 時間をうまく使って、プラスアルファの取り組みをするためにも、1on1を通じて1ヶ月を振り返る時間が活きていたんですね
そうですね。でも、1on1でその話をしていたときに、長谷川さんから「受験をしていた頃は、海外の大学に行ったら課外活動よりも勉強に集中したいと話していたよね」って指摘してもらったことがあって。高校時代は全然違うことを考えていたんだ、と気づけて興味深かったです。
高校生のころは、研究機関である大学に通っている時間を遊んで終わりたくないという気持ちが大きかった。それに当時は、時間は有限で、勉強に何割、課外活動に何割ついやすみたいな考え方をしていました。
でも、大学に入ってからは、長い時間をかけたからといって、その分成果が出るわけではないってことに気づいて。逆に時間がたくさんあると思うと、だらけてしまって効率が悪くなることもある。
それに、大学で友達をつくるなかでも、勉強だけをしている人よりも、それ以外になにか取り組んでいる人の方が、話していて楽しいなと感じることが多かった。勉強だけになると、人生の喜びも減っていくんじゃないかと考えるようになったんです。

言葉にすることで見つかる、次のアクション
━━ 自分の考えの変化に気づけるのも、長く1on1 collegeを続けてきたからこそだと思います。6年半も毎月話をしていて、話すことがなくなったり、停滞したりする時期はなかったんですか?
もちろん、1ヶ月の反省をするだけで終わるときもありました。でも、私の場合は、今まで自分のなかにぼんやりとあった考えがやっと言語化できた!とすっきりする瞬間が4回に1回くらいはあったなと思います。
最近も就活の話をする上で、「どういうキャリアを持った人になりたいか」をテーマに話をして。自分は、技術者でもいいし、ビジネスレベルで何かのオーナーになるでもいいから、モノをつくれる人になりたい。または、自分にしかないスキルをめちゃくちゃ磨いた人になりたい、っていう理想像を言語化することができた。あの瞬間は、すごくスッキリした記憶があります。
━━ そうした考えは、1on1を通じてどうやって言語化されていくんでしょうか。
キャリアという大きなテーマについて、私のなかで思うことが色々あって。それについて長谷川さんに質問してもらいながら話しをしていくことで、それぞれの要素が少しずつ繋がっていく感じです。最終的に言葉にするのは自分だけど、長谷川さんと話している時間の中で気づきが生まれる。
長谷川さんは、「カタリスト(触媒)」のような存在なんだと思います。
━━ その場にいてくれることで思考が深まる。カタリストって、とてもいい表現ですね。言語化できた瞬間は、安藤さんにとってどういう感覚なんですか。
痒くても届かなかった場所にやっと手が届いたみたいな。言語化できたからといって行動が劇的に変わることはそんなに多くはないんです。でも、うまく理解できなくて、なんとなくモヤモヤしたり、不安で悩んでいた時間がパッと消える。
暗闇が怖いと思っていた人が、実物を見ることで怖くないと思える現象と似ているなと思います。悩みとか、怖いと思う気持ちって、妄想によって大きく膨らんでしまうことが多い。言語化することで、そのものの形を捉えることができて、実際に心配しなきゃいけない事柄なのかを明確にすることができる。もしそれが心配するべきことだったとしても、実態が見えることで何をすればいいか対処法がわかるようになるんだと思います。
特に、私が1番ストレスに感じるのが、やらないといけないことがたくさんあるのに、具体的に何をすべきかがはっきりしていない状態。なんとなく「やばい」と思っているけど、何が問題なのかよくわからないものを言葉にすることによって、実は心配することがなかったって気づいたり、これをしないといけないんだって次のアクションがはっきりしたり。特に就活においては、次のステップをはっきりさせるっていう意味で1on1が役立ちました。
「今の選択に満足している」
1on1がキャリア選択に与えた影響とは
━━ 具体的に就活ではどんなことに悩んでいたんでしょう。
たとえば、日本で就職をするか、カナダで就職をするか。ほかにも、キャリアの選択肢として技術職に行くか、ビジネス系のことをやるか、アート系に行くかをずっと悩んでいました。
でも長谷川さんと話しをする中で、アートは昔から興味がある分野だけど、今までそれにつながる行動をしてきたことがないから、今から仕事を探すのは現実的に難しいと思えた。たくさんの選択肢から、今自分ができることと、今後本当にやっていきたいことは何かを整理して、選択肢を削っていきました。
そうやって、ぼんやりと思っていたことを整理しながら、「これはもう考えない」って決める。そうすることで、スッキリするんです。考えることが多すぎて、具体的に何をするかまで思考が至っていなかったのが、だんだん整理されて、具体的な次のアクションを考えるステップに移れたなと思います。
━━ 最終的に、安藤さんは卒業後のキャリアについて、どんな選択肢を選んだんですか?
インターネットゲームの開発や配信を主軸に、ヘルスケアなどさまざまな事業を展開している会社に入社することにしました。その会社の、AIイノベーション事業本部という新しい部署で働く予定です。
その部署では、これから一気に十数本のプロダクトラインを展開する計画で。私は新しいプロダクトの開発などにビジネス側から関わっていきます。
━━ キャリアを考える中で目指していた、「モノをつくれる人になりたい」という像にもつながっているんですね。
そうですね。社員として起業をするような仕事なので、楽しそうだなと思えたし、ここでの経験は自分がこの先独立したとして、活かせるなと思う。今は自分の選択にすごく満足しています。
今の選択肢に満足している一因には、1on1があると思います。
自分の考えを整理することができたからこそ、検討したい選択肢をある程度試すことができた。完璧ではないかもしれないけれど、カナダでの就活を実際にやってみることができたし、興味のある業界で働く色々な人の話を聞きに行って、自分が検討しているキャリアがどういうものかを聞くこともできた。情報不足なまま選択をせずに済んだのは、1on1があったからだなと思います。
1on1の時間をより豊かなものにする姿勢とは?

━━ 約7年間も、1on1を続けてきた安藤さん。もしも1on1 collegeと出会っていなかったら、この期間はどう変わっていたと思いますか?
長いこと悩みを悩みのまま引きずっていたのだろうなと思います。
1on1を通じて、定期的に脳内整理をする時間を設けられていなかったら、何かを決断しないといけない場面で、自分がどう思っているかもわからないという状態になっていたかもしれない。
━━ 最後に、1on1 collegeをどんな人にすすめたいですか。
1on1 collegeの使い方って、人によって全然違うと思うので、誰が使ってもいい。誰かが真剣に自分の話を聞いてくれるっていうのは、どんな人にとっても役に立つと思うから、一度使ってみてほしいなって思います。
でも、どうせやるんだったら、定期的に続けることと、積極的に話すことを大事にしてほしい。塾とか学校とは違って、カリキュラムに基づいて、座っていれば向こうが何かを教えてくれるというものではない。自分が話したい、と思って臨むことで、1on1の時間がより価値の高いものになると思います。
聞き手:高井瞳
(2025.9.27、学年は当時)
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