「企業に振り回されない就活。自分で選ぶ力を培えた気がします」
オランダのアムステルダム大学を卒業し、来年からコンサルティング会社で働く予定の伊藤さん。高校2年生のときに1on1 collegeと出会い、就職活動や自分のコンプレックスに向き合う場として1on1を活用してきた。伊藤さんにとって1on1を続けることはどんな意味があったのだろう。これまでの道のりを振り返ってもらった。
伊藤 優花
既卒
<1on1 collegeとは>
高校生・大学生向けに月1回、1時間、社会人メンターとのオンラインでの1on1を無償で提供しています。
1on1は、なんでも話したり、考えることができる場です。進路や就活について考えたり、最近興味のあることや悩んでいることを整理したり、自己理解を深めるために活用している学生もいます。様々な角度から質問をもらいながら、たくさんのことを「言語化」することで、自分の価値観、行動、目標や課題、優先順位が「整理」され、次の自分の「選択」が最適化されていくと考えています。
体験1on1はこちらから:https://www.1on1college.com/start
高校時代のモヤモヤ。自分の軸を見つけたかった
━━ どうして1on1 collegeをはじめようと思ったんですか?
高校でも友達と1on1に近いことをしていて。けど、お互いのことを知りすぎているし、どうしても主観が入ってしまう。私のことを全く知らない、関係性のない大人と1on1をしてみたいっていう興味がありました。
最初はすごく期待していたわけではなくて。もしかしたら、今抱えてるモヤモヤを乗り越えられるかも、っていう軽い気持ちでした。
━━ どんな「モヤモヤ」を抱えていたんでしょう。
私は愛知県の出身で、小中は普通の公立学校に通っていました。その後、高校は軽井沢にある全寮制のインターナショナルスクールに進学したんですが、そこで大きなカルチャーショックを受けました。
みんな、やりたいことや得意な領域を明確に持っていて。すごくキラキラしていたけど、当時の私は英語も話せないし、みんなみたいに軸になるものもなくて。それがすごくコンプレックスだったんです。
━━ 自分の軸を探すためにも、1on1 collegeを始めたんですね。1on1では、どんなふうに話をするのでしょう。
最初は雑談から始まります。5分くらい話したらメンターの長谷川さんが「今日は何か話したいことある?」と必ず聞いてくれて。そのまま、雑談の延長で話すこともあるし、自分が話したいトピックがあれば、それについて話をしていきます。
私の場合は、テーマは毎月違うことが多かったです。その時々で悩んでいることとか、印象的だった出来事から始まって、それについて色々な角度から質問を投げかけてくれるので、どんどん思考が深まっていくという感じでした。
就活を通じて気づけた、自分にとっての新しい基準
━━ 就職活動についても、1on1で話したりしたんでしょうか。
たくさん話をしましたね。就活は、辛かったなー(笑)。私は、決めきるのが苦手で。大学2年生の半ばぐらいから考え始めて、ずっと悩んでいました。
━━ どんなことに悩んでいたんですか。
ひとつは、大学2年生でインターン先を決めるときですね。私は大学でコミュニケーション学を専攻していたので、その分野に関係がある就職先を調べていたんです。けど、あまりピンとくるものが見つからなくて。
最終的にデザイン会社と、パネルディスカッションなどを企画しているNPOの2つで迷い、NPOを選びました。
仕事の内容からすれば、デザイン会社の方が学んでいる分野に近かったんです。たけど、最後に強く惹かれたのはNPOの方でした。
━━ 学んでいる分野と、自分のやりたいことに乖離ができはじめていたんですね。
そうなんです。
高校時代に抱えていた「自分の軸がない」というコンプレックスを克服するためにも、幅広く学べるリベラルアーツではなく、コミュニケーション学という一つの分野に絞って学ぶことを決めたはずなのに、将来仕事にしたいことが、軸にしたかったコミュニケーションから離れてきているのを感じて。
なんでパネルディスカッションを企画するNPOの方を選んだんだろうって話を1on1でもしていて。メンターの長谷川さんから「昔も同じことをやっていたよね」って指摘してもらったんです。
━━ 同じこと、ですか。
ディスカッションの企画ではないんですけど、高校時代も学校で講演会の企画をしていたことがあったんです。
そのときは、せっかく良いゲストの人にきてもらっているのに、うまく集客できずに全校で10人くらいしか人が集まらなくて。
過去にうまくできなかった経験があるから、もう一回挑戦したくてNPOをインターン先に選んだんじゃないかと気づきました。
━━ 直感的に選んだと思っていたものに理由があったんですね。
そうなんです。振り返ってみると、高校時代に一度挫折したプログラミングも、大学になってまた挑戦したりしていて。
過去に達成できなかったものに再びチャレンジしたいと思っているんだってことに気がつきました。
━━ その気づきは、伊藤さんにとってどんな影響があったのでしょう。
今まで気づいていなかった自分の癖というか、決断するときの基準を言語化することができました。
これまでは、自分にとって仕事選びで大事な基準は、コミュニケーション学に関する仕事かどうかってことだと思ってたんです。でも、私にとっては、「失敗を失敗で終わらせない」ってことも同じくらい価値があるものだと知れたのは大きな発見でした。
大事にしている価値観や指針みたいなものって、呼吸のように無意識に自分の思考に組み込まれていることが多いと思っていて。1on1を通じて、それを探り当てている感じがします。
「一度、感情を置いておく」
考えを整理する時間としての1on1
━━ 行動の癖に気づけたのも、メンターの長谷川さんが高校時代からの伊藤さんのことを知っていたからこそですね。
そうなんです。1on1 collegeが面白いなと思うのは、メンターの長谷川さんは1ヶ月に1回、1時間の間に話す内容しか、私の情報がない。情報が限られているからこそ、マクロな視点が持てるというか、凝縮された私の人生を知ってくれているなと思っていて。
だから、さっきの話みたいに「そういえば昔、こういうこと言ってたよね」って過去の言動を思い出させてくれることが多いんです。自分では忘れてしまっていることや、気づけない変化も、マクロな視点で見ているからこそ、気づいて教えてくれるのは1on1 collegeならではだと感じています。
━━ たしかに、過去の自分の言動を覚えていてくれて、指摘してもらえるのは、すごく大切な気づきにつながりそうですね。その後、就職活動ではどんなことがあったんでしょう。
色々ありますが、大学3年生の夏ごろは、アメリカのボストンで開催される「ボストンキャリアフォーラム(ボスキャリ)」という留学生向けの就活イベントに参加するかを悩んでいました。
━━ どうして、迷っていたんですか。
オランダからアメリカは遠いし、お金も時間もかかるので。本当に行く必要があるかという点と、自分の中でボスキャリに行くことに対して、少し抵抗があって。
個人的には、みんなが行くから自分も行くっていう考え方があまり好きじゃないんです。だから多くの留学生が行くボスキャリに行くことに対して、なんとなく嫌だなと思っていました。
━━ そのことについて1on1ではどんな話をしたんですか。
「そもそもボスキャリに行くと、就職活動にどんなメリットがあるんだっけ」ってところから考えました。
当時の私は、日本に帰って働くか、オランダで働くかを迷っていて。さらに、日本で働くなら、コンサルティング会社かPR系の会社かで迷っていました。その中で、もしもコンサルティング会社に行くなら、ボスキャリに行くのが一番確立が高かった。
その上で、「他の選択肢と比べてコンサルティング会社はどれくらい行く確率があるの?」って聞かれて。自分の中では大きな候補の一つだったので、ボスキャリに行くことにしました。
━━ 質問を通じて、自分の思考を整理していったんですね。
一旦感情を横に置いておいて、メリットとデメリットとかを聞いてくれたので、冷静に考えてられて。行った方がいいなと素直に思えました。
1on1を始めた当時の私は、社会的な評価を重視して、自分の本当の望みや意見を抑えてしまっていたんです。でも、そういう紐を1個1個、認識させてくれる役割が1on1にはあった。だから、1on1 collegeは、人を自由にする。素晴らしい教育なんじゃないかなって思っています。
━━ 人に話したり説明したりすることで、客観的に考えられることも多いですよね。就活では、迷うことも考えることも多いから、そうやって一つひとつ質問をしてもらうことで思考の整理にもなりそうです。実際、ボスキャリに行ってどうでしたか?
ありがたいことに、コンサルティング会社と、非営利団体、PR会社からいくつかの内定をいただくことができました。その中で、最終的にはコンサルティング業界に進むことに決めました。理由は様々ですが、コンサルティング業界から他の業界には比較的行きやすいけれど、その逆は難しいなと思ったのもあります。
1on1 collegeが就活に与えた影響とは
━━ ちなみに、伊藤さんはどうしてコンサルティング業界に興味があったんですか?
高校時代に企業イベントに参加したんですが、その時にあるコンサルティング会社を知って。その人たちの仕事がすごくクリエイティブに見えて、憧れていたんです。
その後も、オランダで知り合った人の紹介で大学1年生からコンサルティング会社でインターンとして働いていたので、この仕事がずっと身近にあって。理想と現実みたいな部分も感じつつ、楽しい仕事だなと思っていました。
━━ もしも1on1 collegeがなかったら、就活の結果は変わっていたと思いますか?
うーん。正直、どちらにしてもコンサルティング会社を選んでいたと思います。ただ、それに対する納得感みたいなのは全然違ったと思います。
今は就職することにも、日本に帰ってコンサルティング会社で働くことにも前向きで、ワクワクしているけれど、1on1をしていなかったら、決断後も悶々としていたと思います。
━━ 自分の決断に納得できることは、伊藤さんにとってどんな意味があるんでしょう。
自分の決断に悶々としていると、それにエネルギーが取られすぎてしまうと思うんです。
今の自分は、将来どんなコンサルタントになりたいかとか、就職した先のことを考えているけれど、何かに悶々としている時って、目の前のことでいっぱいいっぱいになってしまう。
だから、次に進めるという意味でも、決断に納得感を持てたのは大きかったと思います。
━━ たしかに、納得感が違えばその先の行動も変わってきますよね。これからの就活生には、1on1 collegeを勧めたいと思いますか?
是非お勧めしたいです。個人的には、企業に振り回される就活じゃなくて、自分が選んで、自分発信でできる就活をやりたいなと思っていて。1on1 collegeでは、その思考力とか方法を培かえるのかなと思うから、ぜひ使ってほしいなと思います。
あとは、就活だけじゃなくて、自分1人だと考えが深まらないとか、今の現状を変えたいけど難しいって思っている人とか。何かを探している人にとっては1on1 collegeは助けになると思うし、公教育でもこういう機会があればいいのにって思ってます。
自分の決断を信頼できるようになった
━━ なにか変えたいとか、考えたいと思っている人にとっては、良いきっかけになるかもしれないですね。
私自身も1on1を通じて、高校時代から抱えていたコンプレックスがすこし和らいできた気がします。
ずっと、自分の軸になるような興味の分野や領域みたいなものがないのがコンプレックスで。軸になるものを探し続けてきたんです。それは今もそうなんですけど、最近はそれでもいいじゃんって思えるようになってきて。
個人的には、めちゃめちゃ生きやすくなりました。
━━ どうしてそう思えるようになったんでしょう。
1on1を通じて、なんでそんなに一つの領域がほしいと思っているの?って質問を何度もしてもらったんです。
そもそも、それを持ってなきゃいけないって決めたのは私。別に、なくても生きていていいし、活躍もできる。どうしてそこまでして、こだわっているんだろうって思うようになって。
あとは、自分が長く続けているものとか、何かをやるときに選ぶ基準が洗練されてきた感覚があって。まだ言語化できてないけど、軸があるって思える。
だから、人の目を気にして、わざわざ言語化できるまで無理して固めなくてもいいかなって。
━━ 固め切らなくていい。
これっていう言葉はないけど、私の興味は絞られてきてると思うんです。もしかしたら、それは、元々見つけたかった領域とか学問分野みたいなものじゃないかもしれない。でも、専門的な領域がない方が、自分が楽しいって思ったことに対してオープンでいられるし、いいんじゃないって思えるようになりました。
━━ そう思えるようになったのは、1on1があったから?
そう思えるようになったのは、1on1をすることで、自分の行動のパターンが分かってきたからこそ、なんだろうな。1on1をしていると、前にも同じ話をしていたなってことがよくあって。
自分は興味とか、やりたいことがバラバラなんだと思っていたけど、意外と重なってるところが多いって気づけた。
軸がないって思っていた頃の自分って、掴みどころがなかったんですよね。でも、1on1を通じて変わらない部分があると思えるようになって。掴みどころがなかったものが、感覚的にでも掴めるようになった。少なくとも、何かはありそうだぞって思えるようになったんです。
━━ 自分のかたちが、少しづつ見えてきたんですね。
高校のときは、なんか宙に足が浮いてるねって言われることが多くて。ひたすらバタバタしている感じだったんです。何かを求めている感じだったけど、今は地に足ついてる感じです。
それは、自分の決断に対して、信頼できるようになったからだと思います。
伊藤さんにとって、1on1 collegeとは
━━ 5年間も、自分のコンプレックスについて向き合い続けてきたってすごいことだなと思います。
自分に対してストイックに考え続けられる人もいるけれど、私は多分そうじゃない。だから1on1 collegeで定期的に話を聞いてもらって、整理できるのはすごく貴重でした。
━━ 1on1を続けてこれたのは、どうしてだと思いますか?
すごくスッキリしたり、大きな気づきがある回もあれば、停滞期というか、話をしても思考が進まないみたいな時期もあったんです。毎月話したいことがあったわけじゃなくて、直前になって話題を探すために慌ててカレンダーを振り返ることもあって。
でも、1ヶ月に1回自分の考えを言葉にして、一緒に整理してもらえるってすごくありがたいことだと感じていて。あとは話すこと自体が楽しかったです。就職しちゃうと1on1 collegeが使えなくなっちゃうので、どうしようって思ってます(笑)
━━ 伊藤さんにとって1on1 collegeはどんな存在ですか。
なんだろう。イメージは、人生っていう道を歩いている途中にあるバス停ってイメージです。どのバス停に停まるかも、停まらないかも自分で選べる。進み続ける人生のなかで、一旦道を振り返ってみたり、行き先を考える。そんなきっかけになる存在だと思っています。
聞き手:高井瞳
(2024.9.10、学年は当時)