「大事な選択をする高校時代に1on1 collegeがあってよかった」
今年9月から、アメリカのリベラルアーツカレッジでの学びをスタートする若林さん。高校2年生のときに1on1 collegeと出会い、進路や、大学で学びたいことなどについて考える場として1on1を活用してきた。新生活を前に、これまでの対話を振り返り、気づきや、1on1 collegeを使う意義について語ってもらった。
若林 仁菜
大学1年生
<1on1 collegeとは>
高校生・大学生向けに月1回、1時間、社会人メンターとのオンラインでの1on1を無償で提供しています。
1on1は、なんでも話したり、考えることができる場です。進路や就活について考えたり、最近興味のあることや悩んでいることを整理したり、自己理解を深めるために活用している学生もいます。様々な角度から質問をもらいながら、たくさんのことを「言語化」することで、自分の価値観、行動、目標や課題、優先順位が「整理」され、次の自分の「選択」が最適化されていくと考えています。
体験1on1はこちらから:https://www.1on1college.com/start
直感の背景にある理由に気づかせてくれた1on1での問い
━━ 高校2年生のときから1on1 collegeを使い始めたんですよね。きっかけは何だったんでしょう。
メンターの長谷川さんが学校に来て説明会をしてくれたのがきっかけで、1on1 collegeを知りました。
中学生の頃から、日記をつけたり、自己分析をしたりするのが好きだったんです。でも、それを1人でやるのは限度がある。だから、人の声を聞き入れたいなって思ったのが最初のきっかけだったと思います。
━━ 当時は、どんな話をしていたんですか。
最初の頃は、1on1の時までに自分の興味があることについて調べて、それについて語れるようにしようって思って。自分の好きなことを追求していました。
━━ 調べたり考えたりしたことの発表の場みたいな位置付けだったんですね。当時はどんなことに興味があったんですか。
当時興味があったのは、アートディレクションです。
K-popとか洋楽のアーティストのミュージックビデオのセッティングとか、ライティング、フォトブックのデザインに興味があって。それらについて分析して、自分の考察を1on1でシェアしていました。
━━ どんなふうに話を聞いてくれたんでしょう。
私の仮説や意見に対して、違う視点をくれるっていうイメージでした。あとは、「なんでそもそもアートディレクションに興味を持ったの?」っていう部分を深く聞いてくださった印象があります。
「なんであなたはそう考えるのか」とか、「なんでそれに興味を持ったのか」っていう質問をしてくださることが多くて。それまで、私にとってやりたいこととか、興味があることって直感的なものだったんです。けど、1on1では、その直感の背景を聞いてもらっていたなって思います。
好きの理由を言語化することの意味とは
━━ 1on1が直感の背景を言語化する機会になっていたんですね。
そうですね。自分がアートディレクションに興味を持ったのは、社会的なメッセージを伝えるために、どうアートが使われているかってところに興味があったんだなって気づきました。
私が好きだったアーティストさんは、社会を風刺するような作品を出していた人が多くて。そういう社会的なメッセージを、文章とか言葉の媒体だけじゃなくて、他の媒体でどう伝えられるかっていうところに興味があったし、それを表現したいっていう欲求があったんだと思います。
━━ 自分の中の欲求を知れたことは、若林さんにとっていいことでしたか?
その欲求を知れたことよりも、私にとって印象的だったのは、自分が直感的だと思っていた選択とか、好きとか嫌いと感じることにも、ある程度自分の過去の経験や欲求が関係しているってことでした。
━━ おもしろいですね。それを知って、何か変化はありましたか。
自分の意思を再確認できました。直感的に好きとかワクワクするって気持ちで突き進めることもあるけれど、何か難しい状況に陥った時に、それだけじゃ続かないこともあると思うんです。
でも、自分にはこういう過去の経験があるから、これに興味を持ってるんだっていうふうに物語として理解して、自分の中で腑に落とすことができていれば、ある程度決意を持って進んでいけるんじゃないかなって。
大学で学びたいことを見つけることができた1on1の時間
―物語として理解することで、自分の中での説得力が増す。たしかにそうかも知れないですね。大学進学について1on1で話すようになったのは、いつ頃からですか?
高校3年生の4月ごろだったと思います。
当時は、自分が面白そうと思ったことに全部手を出していたんです。例えば、訪日外国人のベジタリアン向けのアプリを開発してリリースしていたり、培養肉の社会受容を高める活動をしていたりとか。あとは、『色彩と社会』という色と社会の関係性を紐解く雑誌つくったりもしてました。
他にも、授業で扱った水俣病や原発問題や、文学作品の分析にも興味がありました。
―すごい!いろんなことに興味が広がっていたんですね。
高校2年生のときからリベラルアーツの大学に進みたいという気持ちはあったんです。けど、リベラルアーツってなんでも学べる環境だからこそ、結局なにを勉強したいんだろう、なにをやりたいんだろうって一回立ち戻るタイミングがあって。それについて考える時間として1on1がありました。
―1on1では、どんなふうに興味のある分野を絞っていったんですか。
今までやってきたことの中で、共通しているキーワードをあげていって。それぞれが重なるところを探す作業だった気がします。
―幅広い関心の中で、どんな部分が共通していたんでしょう。
抽象的ですが、私にとって『対話』と『共感』がキーワードでした。
科学技術が社会で重要な役割を果たしているからこそ、培養肉や人工知能のような新たなテクノロジーが導入されると、原発や水俣病のように倫理的・社会的な問題が生じやすくなります。だからこそ、対話の場が必要になると感じています。
でも、その対話の場で、立場や価値観が異なるとき、『共感』がなければ、対話は成立しないと考えました。
振り返ってみると、私が翻訳文学に惹かれていた理由は、異なる言語や環境を持つ人々の物語に共感できるという感覚に強く魅了されていたからでした。文学への興味は、他の関心分野とは独立して存在していると思っていましたが、人々の『共感』をどのように引き出せるのか、また、それが『対話』においてどのような役割を果たすのか、といった問いにつながっていたんです。
こういう抽象的な問いを具体的な事例から探求できる学問が、科学技術社会学だと気づいたときは、すごく嬉しかったです。
―科学技術社会学は、科学技術と社会が互いにどう影響しあっているかを研究する学問分野。経済学、政治学、社会学、人類学とか、いろんな学問分野が関わってくる学問ですよね。
そうなんです。そこが私の推しポイントの一つで。一つに絞れない性格でもあるんで、色々できるのもいいなと思った理由でした。
―興味を絞っていく中で、1on1ではどんな問いを投げてもらったか覚えていますか?
前提を疑う質問してくださるので、「そもそもリベラルアーツの大学に進学するにもかかわらず、本当に自分の興味関心とか熱意のある学問を特定する必要があるの?」みたいなことを聞かれたりもしました。
関心を絞るプロセスにおいては、「ここの部分とここの部分はつながってたりする?」とか、そういう質問も投げかけてもらっていて。自分で考えていくための、深掘りや整理をしてくれるっていう印象でした。
シカゴ大学とカールトン・カレッジの2択。対話を通じ、考え抜いた答えとは
―学びたいことを絞っていった上で、大学はどうやって決めたんでしょう。
合格をいただいた大学の中で、最後に2択として残ったのが、シカゴ大学とカールトン・カレッジでした。
シカゴ大学は、総合大学だけど世界ランキング11位の大学で、ノーベル賞受賞者もたくさんいるとてもいい大学。高校2年生の時からずっとリベラルアーツの大学に行きたいと思っていたけど、シカゴ大学から合格をもらってすごく、揺れました。
―それは揺れそうです。
自分のそのキャリアを考える上で、名前が知られている大学に行くっていうのは、キャリアにすごく役立つと思っていて。それに、シカゴ大学も、総合大学の中だとリベラルアーツのカリキュラムにすごく力を入れているところではあるので、葛藤しましたね。
―難しい判断だけど、どうやって考えを整理していったんでしょう。
1on1以外でもいろんな人に相談しましたし、1on1では自分が大学を選ぶ上で何を重視するかっていう評価基準をたくさん出して考えていきました。
例えばですけど、そこにいる生徒の雰囲気とか、教授との距離感とか。地理的条件とか、どれくらい多様な学問に触れられるんだろうとか。そういういろんな条件の項目を出した上で、私にとって、カールトン・カレッジよりシカゴ大学が上回っていたところは、知名度と社会的評価と、地理的条件だけだった。
それよりも、リベラルアーツ教育の理念と実践、教授や生徒同士との距離の近さ、少人数対話型の授業、とかの方が重要だって最後は思いました。
―いろいろ条件を出して比べていく中で、大事なものを絞っていったんですね。1on1ではどんなことを聞かれましたか。
自分が出した基準の中でも、優先順位が高いのはどれ?みたいな質問をしてもらったりしました。たとえば、地理的条件と教授との距離感だったら教授との距離感のほうが優先順位高いよね、みたいな整理を一つひとつしていった。
あとは、いろいろと考えが煮詰まってきたときに「結局直感はどうなんだろうね」っていう質問もしてくれて。長谷川さんからその質問をされて、確かになって思いました。やっぱり直感は確実にカールトン・カレッジだったし、シカゴ大学に行ったら後悔するだろうなってそのときに思いましたね。
―今の判断には、自信を持っていますか?
わかんないです。でも、カールトン・カレッジを選んだ自分のことはすごい好きだなって思う。
きっと、シカゴ大学を選んだにせよ、カールトン・カレッジを選んだにせよ、どっちに行っても、ここに来てよかったって思えるように自分でするだろうとは思います。でも、本当にそこに行ってよかったって思えるのは、実際に行って、何か価値があるものを得てからなのかなって思っています。
自分の前提や当たり前に気づかせてくれた1on1 college
―お話を聞いていると、若林さんは、いろんなことを考えて実行していて、自分一人でも充分に考えられるタイプな気がします。それでも、第三者からの問いを受けて、対話をしながら考えを深める意味をどう感じていますか。
高校2年生から3年生の時は、クラスメイトも先生たちもすごく忙しくて。だから、すごくちゃんと向き合って、時間をつかって話しを聞いてくれる人ってなかなかいなかったんです。
一人で考えてると、自分の視野だけになって狭くなることもある。だからこそ、メンターの長谷川さんの存在が大きかったなって思います。
―1on1は、若林さんにとってどんな存在だったんでしょう。
1on1 collegeと、私がアメリカのリベラルアーツカレッジに求めているものって共通している部分があるなと思って。
―共通する部分?
アメリカのリベラルアーツカレッジの理念が、「人を自由にする教育」なんです。生活のなかでいろんな慣習や概念っていう紐に縛られてる。大きいもので言えば、資本主義っていう経済体制かもしれないし、小さいものなら、学校の先生と生徒みたいな関係性かもしれない。そういう紐に囚われて生活しているけど、その紐に気づけるか気づけないかってすごく大きな違いだなって思っていて。
紐の奴隷になったまま意思決定をするのと、自分のまわりにはこういう紐があったんだって気づいて、その上でその紐を解くのか、解かないのかを判断するのは違う。1on1を通じて長谷川さんが私にしてくれていたことは、私の中で前提になってるいろんな紐に気づかせてくれることだったんだと思います。
1on1を始めた当時の私は、社会的な評価を重視して、自分の本当の望みや意見を抑えてしまっていたんです。でも、そういう紐を1個1個、認識させてくれる役割が1on1にはあった。だから、1on1 collegeは、人を自由にする。素晴らしい教育なんじゃないかなって思っています。
―1on1が自分の常識や、前提としている価値観に気づくきっかけになってたんですね。どうして、1on1をするとそれに気づけるようになるんでしょうか。
長谷川さんが、そのことをすごく意識して質問をしてくれているからだと思います。そもそも、なんでその悩みが出てきてるのかとか、それを考えることはそもそも必要なんだっけみたいなこととか。私たちが考えていることの前提になってる部分に意識を向けた質問をしようとしくれているのかなって思っています。
―ひとりで考えるだけだと、それに気づくのは難しい?
限界がある、に近いかもしれないです。人との会話の中で気付くものなのかな。あとは1on1っていう名前のとおり、1人の人に向き合って、その人に真摯に質問を投げかけるってことって、普段の生活ではなかなかしないと思うんです。
毎月1時間、親友くらいの親密さで話を真剣に聞いてくれる存在
―たしかに、1時間自分のためだけに向き合って話を聞いてもらうって、なかなかない経験ですよね。
そうなんです。自分の人生に不思議な関係性の大人が1人いるっていうか。それって、結構大きいなって思っていて。日常生活にすごく関わりがあるわけでもないけど、必ず1か月に1回、1時間ぐらい話す人がいる。親友くらいの親密さで、すごく話を聞いてくださる年上の方がいらっしゃるっていうのは、安心感もありました。
あと、高校時代は自分にとって重要な意思決定をする機会がとても多かった。だからこそ、自分が納得いくような意思決定をするために、1on1で質問を投げかけられてどんどん掘り下げていって、自分の中で物語を作るみたいな必要があったのかなって思っています。
―大学進学の直前ではなくて、高校2年生という早いタイミングから1on1を利用していたけれど、それはよかったですか?
よかったです。大学の話をするタイミングになって、メンターの長谷川さんから「それ昔から言ってたよね」って言ってもらうことがよくあって。
自分は忘れてるけれど、私って昔からそのことについて考えてたんだとか、この考えは変わってないんだって知れたり。それこそいつの間にか軸になっていたものがあったんだっていう気づきもありました。
受験や就活の時だけではもったいない。人生を通じて使い続けたいサービス
―これから1on1を始める人も、早いうちから長期間やった方がいいと思いますか。
長くやった方がいいというよりは、受験とかのためだけに使うのはもったいない、って方が近い気がします。
1on1でやることって、就活とか受験とか、そういう社会的に要請される機会だけじゃなくて、人生を通じてやり続けていくべきことなのかなって思うから。こういう作業は、はやくからやっといた方がいいのかなと思います。
―受験とか就活のためにやるのはもったいない。
もったいないですね。受験とか、就活の時みたいにストレスやプレッシャーがある環境だと、どうしても揺れたり、妙な価値観をいきなり取り入れちゃったりとかすることもあると思うんです。でも、余裕がある時期から1on1をやっていくことで、ある程度自分のベースを保ちながら意思決定ができるのかなって思います。
―たしかにそうですね。若林さんも大学を決める直前で1on1を始めていたら違う結果になっていたと思いますか?
急に目の前にシカゴ大学とカールトン・カレッジの選択肢が出てきたら、シカゴ大学を選んでいたと思います(笑)。
でも、ずっと前からなんでリベラルアーツの大学にいきたいかっていうっていうことについて、何度も話していたからこそ、やっぱりカールトン・カレッジが自分にとってはいいと思えたんだと思います。
―最後に、どんな人に1on1 collegeを使ってもらいたいか教えてください。
希望する限りどんな人でも。1on1 collegeでやってることは、私たちが人生としてやり続けることができたらいいことだと思うので、年齢や、その時の状況に関わらず、希望する人がいるなら、是非やってほしいなと思います。
でも、それだとちょっと広すぎるから、もうすこし具体的に言うと、私みたいに好奇心がすごい強い人に使ってもらってもいいんじゃないかな。自分に対する好奇心とか、興味ある対象に関する好奇心みたいなのをどんどん深められる時間だなって思います。
あとは、意思決定をする必要がある人。何か意思決定をする場が将来的に来るときに、それに向けて準備したい人にも使ってもらいたいなと思います。
(2024.7.27、学年は当時)